とちぎ健康啓発シリーズ Vol.01 はじめよう 脳卒中予防

日本三大疾患の一つ「脳卒中」。寝たきり高齢者の3割、要介護者の2割が脳卒中を発症した方と言われています。

世界脳卒中機構は毎年10月29日を「世界脳卒中デー」として啓発活動を行っています。国内では、日本脳卒中協会が2002年から毎年5月の最終週を「脳卒中週間」としていましたが、2021年から新たに10月を「脳卒中月間」と定め、より集中的に病気の周知を徹底することにしました。

コロナ禍で運動する機会が減ったり、食生活を変えたり、体調の変化を見逃したりしてはいませんか? 脳卒中は予防と、体に現われたサインに気づくことが何よりも大切です。まずは生活習慣の改善など、日々できることからはじめてみませんか。






正しい知識をもって予防につとめよう

脳卒中とは、脳の血管が詰まったり、破れたりして起こる病気です。大きくは、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の細かい血管が破れて出血する「脳出血」と、脳血管にできた瘤が破裂して出血が広がる「くも膜下出血」の3つに分かれます。「がん」や「心臓病」に次いで栃木県の死因の第3位になっています。

脳卒中は、暖かい場所から寒い場所へ移動した時などの急激な温度差で血圧が大きく変動すること(ヒートショック)をきっかけとして起こる場合もあります。栃木県では、脳卒中死亡率は年々減少傾向にはあるものの、男女とも全国下位の状況が続いています。また、冬季死亡増加率において、本県は25%と全国のワースト1位になっております。

北海道・東北地方など寒い地域と比べて栃木県は、高断熱住宅の普及率が低く、また、放射冷却現象により明け方にかけて冷え込みが厳しい冬の気候などから、ヒートショックに陥る可能性が高いことも原因の一つとされています。脳卒中は、中高年以上に好発する病気という印象が強いですが、30~40歳代でも発症します。若年者の脳卒中には高齢者とは異なる原因があります。その一つが「脳動脈乖離」です。脳動脈乖離とは、脳の動脈壁(血管の内側)が裂けて、血液の通り道が狭くなる状態です。狭くなったところが詰まってしまうと「脳梗塞」を起こし、血管が外側に膨らんで破けるとくも膜下出血や脳出血を起こします。

また、「脳梗塞」「脳出血」「くも膜下出血」の3つのタイプの中で、若年者に多いのは「脳出血」です。発症者には、健康診断で高血圧を指摘されていたにもかかわらず、放置していたケースが多く見られます。脳卒中は、「寝たきり」の原因第1位であり、発症すると要介護になりやすく、また、再発の危険性も高くなります。脳卒中の予防には、血圧のコントロールをはじめ、生活習慣の正しい管理が必要です。 栃木県の状況では、1日当たりの食塩摂取量は以前に比べ改善傾向にありますが、野菜摂取量、運動習慣、成人の喫煙率は全国の下位に位置している状況です。

減塩や野菜・魚類の摂取などバランスの良い食事や運動習慣の維持、禁煙など高血圧や糖尿病にならない生活習慣に気を配り、健康診断を定期的に受けて脳卒中の予防、早期発見に心がけるとともに、少しでも不安があれば、早めにかかりつけの医師などに相談していただければと思います。


栃木県医師会
会長 稲野 秀孝 医師
稲野医院
経歴
1981年 広島大学医学部卒。東京女子医科大学病院内科研修。
1983年 国立療養所東京病院。
1985年 東京女子医科大学呼吸器センター内科。
1989年 トーマスジェファーソン大学リサーチフェロー。
1990年 ブリティッシュコロンビア大学リサーチフェロー。
1996年 同医科大学非常勤講師、稲野医院院長(~現在)。
2009年 宇都宮市医師会会長。
2016年 栃木県医師会副会長。
2020年 栃木県医師会会長。栃木県医師会塩原温泉病院理事長。

今日からはじめる 生活改善

10月は「脳卒中月間」、10月29日は「世界脳卒中デー」です。脳卒中ってご存知でしょうか?

脳卒中は「寝たきり」の最大の原因です。一刻も早く治療して後遺症を軽く抑えること、つまり、ご自身、ご家族が脳卒中かな? と思ったらすぐ救急車を呼ぶ! ことが大切です。片方の顔が歪む、片側の腕や手足に力が入らない、ろれつが回らない、言葉が理解できないなど、顔・腕・言葉の異常が突然でたら脳卒中の可能性があります。ほかにも色々ありますが、仕事中、寝ている時、「突然」症状が出現します。

予防のためにできることを紹介します。朝起きて1時間以内と寝る前に、1?2分落ち着いてからの血圧測定。125/75mmHg未満が良いとされています。塩分は控えめ(男性7.5g/日、女性6.5g/日)、動物の脂や卵は控え、背の青い魚、野菜をよく食べる、禁煙、飲み過ぎない(日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本、ウイスキーならダブル1杯)、1日30分以上(できれば60分)息がはずむ程度のウォーキングの習慣をつけると良いでしょう。持病がある方は主治医に相談してください。それと不整脈。脈が不規則になる心房細動は薬で約6割も血管が詰まるタイプの脳卒中を予防できます。手首で脈を診ることもできますが、今は不規則脈波検出機能付き血圧計や家庭用心電計、スマートウォッチなどで脈の不整が分かります。不規則かな?と思ったら心電図検査を受けてください。それと健診も重要です。

さて、もし脳卒中になると仕事のこと、経済的なこと、介護のことなど色々な心配が出てきます。そんな時は病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)に相談されると良いかと思います。


(公社)日本脳卒中協会 栃木県支部
支部長 竹川 英宏 医師
獨協医科大学病院
経歴
1998年 獨協医科大学 医学部 医学科卒,獨協医科大学 神経内科 研修。
2004年 獨協医科大学 大学院 内科学(神経)修了,獨協医科大学 神経内科 助手。
2009年 獨協医科大学 神経内科 講師。
2012年 獨協医科大学 神経内科 准教授。
2014年 獨協医科大学病院 超音波センター長(現在)。
2016年 日本脳卒中協会 常務理事・事務局長(現在)。
2018年 獨協医科大学病院 脳卒中センター長,教授(現在)。
2020年 日本脳卒中協会 栃木県支部 支部長(現在)。

※情報はすべて取材当時のものです。